地下鉄駅を対象とした地震動に対する地盤-構造物の連成解析

地下鉄駅を対象とした地震動に対する地盤-構造物の連成解析

地下鉄駅の解析事例

地震発生時の地盤-構造物の相互作用を考慮した大型地下構造物の動的解析の例として、地下鉄駅のホームに対するSSI(Soil-Structure Interaction)解析の事例をご紹介します。

ACS SASSIの特徴と原子炉建屋モデルを対象とした事例についてはこちらのページをご覧ください。

 

動画1. 地下鉄駅モデルの地震応答解析 変形アニメーション(アイソメ視点)

 

解析概要

目的

兵庫県南部地震により大きな被害を受けた神戸高速鉄道大開駅の有限要素モデルを作成し、地震動に対する変形および中柱に発生する応力を確認します。

使用ソフトウェア

SSI解析ソルバー:ACS SASSI Version 4.3
可視化ソフトウェア:Altair HyperView 2022

計算時間

計算時間:150時間 (80周波数)
掘削地盤の節点数:55588
相互作用節点数:14179
解析環境:CPU Intel(R) Xeon(R) CPU E5-1630 v3 @ 3.70GHz / RAM 256 GB

解析モデル

以下の文献の緒言を参考に地盤と構造物の解析モデルを作成しました。

参考文献:

矢的照夫ら『兵庫県南部地震による神戸高速鉄道・大開駅の被害とその要因分析』
土木学会論文集No. 537/1-35, 303-320, 1996. 4

材質:鉄筋コンクリート
質量:1.15×105 ton
総節点数:59192
構造物の節点数:17416
駅の長さ:120m (解析モデルY方向)

図1~図3に、地下鉄駅と地盤の位置関係と地下鉄駅モデルの寸法を示します。
図1. 地下鉄駅と地盤の位置関係
図2. 地下鉄駅モデルの寸法(アイソメ図)
図3. 地下鉄駅モデルのA-A断面の寸法(図中の数字は板厚を表す)

 

今回作成したモデルの特徴として、中柱の詳細な応力分布を確認するために中柱を梁要素ではなくシェル要素でモデル化しているという点があります。参考文献では梁要素でモデル化していますが、実際の中柱の断面は長方形のため、肉厚のシェル要素によるモデル化を選択しています。以下に中柱のメッシュと要素座標系を示します。図4の赤枠に示した中柱は結果評価に使用しています。

図4. 中柱のメッシュと要素座標系

 

入力地震動

入力地震動は神戸地方気象台で観測された兵庫県南部地震(JMA Kobe)を使用し、モデルの方向に調整した波形を地表面位置に入力します。調整した地震波と応答スペクトルを図5に示します。

図5. 地震波と応答スペクトル

SSI解析の結果

変形アニメーション

地下鉄駅の変形アニメーションを動画2、動画3示します。

動画2. 地下鉄駅モデルの地震応答解析 変形アニメーション(上面視点)

 

動画3. 地下鉄駅モデルの地震応答解析 変形アニメーション(側面視点)

中柱に発生する変位と断面力

図4中の赤枠で示した中柱の変位と断面力を確認します。図6は評価対象の中柱に最大変位が発生する時刻t=2.33秒における変位と断面力(軸力、曲げモーメントおよび面外せん断力)のコンター図とベクトル図です。ここで示す断面力は単位長さ当たりの力です。
図6-a)の変位コンター図(resultant)を見ると、この時刻では中柱の下端に変位が発生することがわかります。図6 b-1)~b-3)の各成分ごとの変位コンター図を見ると、X方向とY方向成分では下端に近い部分で大きな変位が発生し、Z方向成分では中柱の中間部の両側面に最大と最小の変位が発生しています。従って3次元的に捩じれた曲げ変形モードになっていることがわかります。図6-c)の軸力コンター図を見ると、中柱の上下端部では水平方向で一様な分布にならず、水平方向の両端で最大2000 kN/m 程度の差が生じることがわかります。図6-d)の曲げモーメントコンター図を見ると、中柱の中心が0に近いモーメントで上下端部に大きな曲げモーメントが発生しています。図6-e)の面外せん断コンター図を見ると、上端から下端にかけて内側の要素に小さな面外せん断力が発生し外側に大きな力が発生する傾向があることがわかります。

 

図6. 中柱に発生する変位と断面力

中柱に発生する最大断面力

本解析の結果と参考文献の結果を断面力の最大応答で比較します。評価する中柱は「中柱のメッシュと要素座標系」の図中の赤枠の中柱を用いています。比較結果を表1に示します。軸力については乖離があるものの、曲げモーメントとせん断力については10%程度の誤差で一致していることがわかります。曲げモーメントとせん断力は終局耐力を超える応答となるので、中柱が破壊されるほどの荷重が加わっていたことが確認できます。

表1. 文献との結果比較

終局耐力(文献より) 文献値 ACS SASSI 計算結果
軸力 [kN/m] 2354 547 917.1
曲げモーメント [kNm/m] 400 682 640.5
せん断力 [kN/m] 192 355 387.5

 

地下鉄駅モデルの全中柱について時刻歴中の最大断面力を抽出してプロットしたのもを以下に示します。
図7の軸力についてみると、上部構造がある分Platform部分よりConcourse部分の方が大きな応答が発生していることがわかります。図8の曲げモーメントと図9のせん断力はトンネル幅方向の加振の影響が大きいPlatformでほぼ一様に最大応答が発生していることがわかります。

 

図7. 中柱の最大軸力

 

図8. 中柱の最大曲げモーメント

 

図9. 中柱の最大せん断力

この事例は平成30年度の土木学会全国大会にて発表された内容を基に作成しています。

学会名:平成30年度 土木学会全国大会 第73回年次学術講演会 (講演番号:I-332)
講演タイトル:Soil Structure Interaction of Underground Structures Considering Ground Motion Coherency and Incoherency Effects: Application to Failure of Daikai Subway Station
著者:Madurapperuma, M.1, Horiguchi, T.1, Sato, K.1, Kawanabe, T.1  1:株式会社テラバイト

 

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