AnyBodyによる投球動作時の肩甲下筋張力推定

AnyBodyによる投球動作時の肩甲下筋張力推定

概要

野球の投球動作に起因する肩・肘関節の障害は年代を問わず多く見られ、その予防は重要です。これまで、モーションキャプチャと床反力計を組み合わせて、力学的負荷を算出する研究が行われてきましたが、解析項目は主に肘関節回内トルクなど、関節レベルにとどまっています。また投球エラー動作の一つに「肘下がり」と呼ばれる、肩関節外転角度不足があります。この肘下がり時に、肩関節周囲筋がどのように張力を発揮しているかは不明です。本事例では、2台の同期ハイスピードカメラを用いて投球動作を撮影し、肩関節周囲筋の中でも重要とされる肩甲下筋の活動を推定し、肘下がりを有する投手と有さない投手を比較した試みについてご紹介いたします。

解析の概要

今回の解析の基本的な流れは、以下に記載するとおり です。
1. 2台の同期させたハイスピードカメラで投球動作を撮影
2. SPLYZA Motion(株式会社SPLYZA)を用いて2つの動画データを解析
3. 2つのデータをAnyBodyで組み合わせて逆動力学解析を実施

対象は野球チームに所属する小学生6名です。内訳は、肘下がりを有する投手(肘下がり群)が3名、有さない投手(健常群)が3名でした。肩関節外転角度が85°未満の場合に、肘下がりと定義しました。
今回対象とした肩甲下筋は線維によって機能が異なるため、上部線維と下部線維に分けました。また投手によって体格が異なるため、筋が実際に発揮した張力/筋が発揮できる最大張力、から計算されるActivityを指標として用いました。

 

 

 

肩甲下筋上部線維と下部線維

投球動作の対象区間は、踏み込み足が地面に接地するFoot contact(FC)から、肩関節最大外旋位となるMaximal external rotation(MER)までです。FCはAnyBodyの反力推定機能を用いて、踏み込み足(左足)に地面反力が発生したタイミングと定義しました。MERは肩関節の外旋角度が最大となるタイミングとしました。なお、投手によって時間が異なるため、100フレームに正規化して解析を行いました。

 

 

Foot contactとMaximal external rotation

Mocap計測

ハイスピードカメラでの計測

2台の同期させたハイスピードカメラのデータを用いました。対象が右投手のため、前額面にあたる二塁方向と、矢状面にあたる三塁方向から撮影しております。

 

2方向からのハイスピードカメラでの撮影

SPLYZA Motionでの解析

2つの動画をそれぞれSPLYZA Motionに取り込み、動作の同定を行いました。

 

AnyBodyでの解析

SPLYZA Motion から出力された前額面(2塁方向)および矢状面(三塁方向)の 2 つの動作データを AnyBody に取り込み、解析を行いました。
単一方向の撮影では奥行方向の情報が不足するため、両視点のデータを組み合わせることで互いの奥行成分を補正しております。図のピンク色の部分が前額面での動作データ、水色の部分が矢状面での動作データとなります。

 

AnyBody内での二つの動作データの組み合わせ

結果

肘下がり群において、肩甲下筋上部線維と下部線維ともにActivityが低い傾向がみられました。

 

 

肩甲下筋上部線維のActivity

 

肩甲下筋下部線維のActivity

 

考察

投球動作において肩甲下筋は重要とされます。健常群では肩甲下筋の上部線維と下部線維でともに高いActivityが示されており、FC※1からMER※2の間で大きな張力を発揮することが確認されました。一方で、肘下がり群では肩甲下筋のActivityが低くなっており、発揮張力が低い結果となりました。

肘下がり群の特徴として、肩関節外転角度が小さいことが挙げられます。外転角度が小さい場合、肩関節の内旋に作用する肩甲下筋の活動は低下しやすいとされています。またこの場合、広背筋の作用線(引っ張る方向)が肩関節の内旋方向へ近づくため、広背筋が内旋に関与しやすくなった可能性があります。

以上より、肘下がり傾向のある投手では肩関節外転角度が小さくなることで、肩甲下筋の上部線維と下部線維の張力が低下することが考えられます。

※1 FC:Foot contact  ※2 MER:Maximal external rotation

限界点

今回は6名という限られた人数での分析であり、結果には個人差が影響している可能性があります。また、小学生を対象としたデータのため、大人の選手とは異なる特徴を示す場合も考えられます。今後は、年齢やカテゴリーの異なる選手と比較しながら、肘下がりの特徴をより詳しく調査していく予定です。

以上。

 

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